# File: text02.txt 文壇の、或《あ》る老大家が亡《な》くなって、その告別式の終り頃から、雨が降りはじめた。早春の雨である。 その帰り、二人の男が相合傘《あいあいがさ》で歩いている。いずれも、その逝去《せいきょ》した老大家には、お義理一ぺん、話題は、女に就《つ》いての、極《きわ》めて不きんしんな事。紋服の初老の大男は、文士。それよりずっと若いロイド眼鏡《めがね》、縞《しま》ズボンの好男子は、編集者。 「あいつも、」と文士は言う。「女が好きだったらしいな。お前も、そろそろ年貢《ねんぐ》のおさめ時じゃねえのか。やつれたぜ。」 「全部、やめるつもりでいるんです。」 その編集者は、顔を赤くして答える。 この文士、ひどく露骨で、下品な口をきくので、その好男子の編集者はかねがね敬遠していたのだが、きょうは自身に傘の用意が無かったので、仕方なく、文士の蛇《じゃ》の目傘《めがさ》にいれてもらい、かくは油をしぼられる結果となった。